元厚生次官殺傷事件を考える2 精神鑑定(続)
前回の続きで、精神鑑定にまつわるあれこれを取り上げます
法廷で被告人自らが鑑定人に質問するという、珍しい場面を作り出した小泉被告ですが、その言動によって鑑定の正しさを証明する結果となりました
あれだけ鑑定人に食ってかかったのは何ゆえだったのでしょうか?
鑑定を否定するつもりなら、まるで逆効果でした
ですが、小泉被告には鑑定そのものを否定するつもりはなかったようです
つまり小泉被告の怒りは犯行当時責任能力があったとした鑑定の結果に向けられたものではなく、別のところにあると考えられます
形式的に見れば、法律や行政機関、医師や精神医学といった「権威」に対して小泉被告は敵意を抱いていると言えるでしょう
しかしそれだけではなく、精神鑑定によって自分の内面を盗み見られたとの思いが怒りとなって表出したのではないでしょうか
人は誰も他人に見せたくない、見られたくないものを心の中に持っています
それを鑑定人に見られなかったと思えば、小泉被告は法廷で静かにせせら笑っていたと思います
ところが鑑定の結果、鑑定人が自分の「見せたくない部分」を盗み見たと知り、怒りを抑えられなかったと考えられます
一般の方が産経新聞の「法廷ライブ」を読むと、鑑定人が法廷で被告人に因縁を吹っかけられ大変な目に遭っている、と思われるかもしれません
ですが精神科医は患者から毎日のように、「医者に何がわかるのか?」と絡まれたり怒鳴りつけられたりしていますのでいちいち気にしません
気にしていたら精神科医などやっていられないのです
この事件は「愛犬が保健所で処分されたという理由だけで殺人に走るという奇怪な事件」のように報道されていましたが、精神分析の側から言えば「愛犬」とは小泉被告自身です
つまり「社会の中で不当な扱いを受けている自分」が、「処分された犬」と同一視されているのです。「愛犬の敵討ち」とは即ち小泉被告自身の復讐に他なりません
「愛犬を処分されたから厚生省の事務次官を殺害する」という動機に戸惑い、異常だとメディアは騒いだのですが、それが逆恨みであれ、無関係な人を巻き込んだ殺人であれ、小泉被告の中では首尾一貫した行動として遂行されているのです
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