村上春樹「神の子どもたちはみな踊る」
村上春樹の短編集「神の子どもたちはみな踊る」を取り上げます
冒頭の「UFOが釧路に降りる」では、地震の報道に見入る妻が登場します
夜も昼も、ひたすらテレビに向かい無言のまま地震のニュースを見る姿の描写で思い起こすのが、アメリカで起きた9・11のテロ事件です
深夜にNHKの臨時ニュースを見た自分は、貿易センタービルに航空機が突っ込む場面が繰り返し流れるのをただ漠然と眺めていました
(何かが起きている)との実感はあってもそれが何であるのかは言い当てられず、ただテレビの画面を眺めているだけという体験です
それは神戸の震災報道に直面した人も、直接現地で地震を体験した人も同じであったかもしれません
知識として地震というものが頭にあっても、家が潰れるほどの揺れを体験したことがないと事態が飲み込めず、理解できない状態です
つまり人間は過去に経験した事象ならば比較的容易に言語化し、それを理解できるのですが、経験のない事象はそれを言語化できず理解するもの困難だということです
政治家もその例外ではありません。当時の首相だった村山富市は、首相官邸で呆然とテレビの報道を眺めたまま何の決断も下せませんでした
地震の起きた朝、各地の自衛隊は隊員を招集し、いつでも災害救助のため出動できるよう準備をしたのですが、村山首相はいつまでたっても自衛隊に出動命令を下さず、被災地では多くの人命が失われたのです
さて、話がそれてしまいました。小説に戻します
「UFOが釧路に降りる」では「喪失の発見」が描かれています。妻を失った男が北海道まで行き、「妻を失った自分」を発見する体験が淡々と語られています
妻を失った経験のない人間にはその事態が飲み込めず、理解できません。単に妻という存在が欠落しただけで、日常は変わりなく繰り返されます
「喪失」という現実を理解し、受け入れるのはずっと後になってからなのだという話です
続く「アイロンのある風景」は味わい深い一編です。短編で終わらせるのはもったい気がするくらい奥行きのあり、そのまま映画になりそうな話です
登場人物である女性が高校時代、ジャック・ロンドンの小説「たき火」の読書感想文を書いたエピソードが重要な鍵となっています。彼女は「たき火」の主人公が死を求めていると悟り、感想文に書くのですが教師に笑い飛ばされてしまいます
精神分析家フロイトは生涯を通して人間の欲望について考察し続けた人ですが、人の欲望とは死を欲するものだ、との結論にたどりつきました
フロイトが生涯をかけて究明した結論に、彼女はいきなり15歳で到達してしまったのです。その結論は苦く、重く、うつろに彼女の生を支配します
ネタバレを避けるためこれ以上は書きません
村上春樹はこのところ、時間をかけて長大な小説を発表するスタイルを貫いていますが、実は優れた短編小説の書き手でもあります。長編小説も魅力ですが、自分としてはもっと短編小説を読めたら、と思います
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