映画「ツィゴイネルワイゼン」 鈴木清順監督

昔住んでいた地方都市の住居の近くにレンタル・ビデオ店が開店したのがきっかけで、それまで名前だけ知っていて実物は見たことのない映画を借りまくり、見た時期があります
その中の一本が鈴木清順監督作品の「ツィゴイネルワイゼン」です
日本の映画史上に残る「怪作」だと思います
鈴木清順は、「わけのわからない映画ばかり撮る監督」として知られ、何度も業界から干された経験がある人物です
しかし、緻密で奇想天外なその映画はとても魅力に溢れています。猥雑でいかがわしい反面、静謐で叙情豊かな表現もこなし、時代の色や匂い、手触りまでも再現しようとする姿勢はいまの監督には見られないものです
たとえばNHKの大河ドラマは戦国時代を扱っているわけですが、戦国時代に生きている人の有り様の描写は希薄で、いつの時代であるのか判然としません
言葉や衣装は戦国時代を意識しているのでしょうが、所作や着物の着こなしなどはまったく駄目です
役者に時代劇の衣装を着せたトレンディドラマ、と言えばよいでしょうか
映画「ツィゴイネルワイゼン」では、大正時代の女性はこのような立ち振る舞いだったのだろう、と思わせる演出がなされています
着物姿の大谷直子が延々とコンニャクを千切り続ける場面もその一つです
もう一つ、NHKの大河ドラマとの大きな違いは陰影です
光と影を巧みに使い、人物やドラマを色濃く演出する技法が全編に見られます
戦国時代はもっと闇が濃く、夜などはほとんど真っ暗だったはずですが、最近の大河ドラマは能天気なほど夜も明るくて(暗いと役者の表情が映らない、と思っているためなのでしょうか?)、ドラマに深みが感じられません

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