母親を殺害した八戸事件を考える 4

この事件では2組のチームが精神鑑定に当たり、異なる所見の鑑定書を出しています
検察側は「家族がおかしくなったのは、父親が事件を繰り返して家庭を守らなかったこと。そんなことがなければ、施設に入れられることもなかった。そして、母親が昼間から酒を飲んで醜態を晒し、他の男が自宅に出入りすることもなかった。そんな男に弟や妹が懐くこともなかった」と、家族への憎悪が犯行の背景にあったと主張
そして、人格障害ではあるが、犯行直前まで、一定の範囲内では通常の社会生活を送っていて、幻覚や妄想に支配されず、意識障害もなかったことから責任能力がある、との精神鑑定結果を採用するよう求めました
弁護側は、「長男は現在も特定不能の精神障害にあって、犯行時の記憶は断片的で、幻覚や妄想に支配されていたこと。だから、動機が不明で、善悪の判断能力や行動をコントロールできずに、無意識に実行してしまった。死体損壊については猟奇的で通常の精神状態では実行できず、責任能力はない」とする精神鑑定の結果に沿う主張を展開しました
まず精神疾患の治療が必要であり、そのためには、家庭裁判所に移送して少年審判をやり直し、医療少年院送致とすべきだと求めたのです
判決では責任能力を認め、無期懲役の判決になっています
精神鑑定については前にも述べましたが、医師がその根幹に置く理論によって見方も結論も違ってきます
一頃は「分裂病」(現在は統合失調症)による犯行とする精神鑑定が多かったように記憶しています。その後は自己愛型人格障害、あるいは境界型人格障害とする精神鑑定が目立つようになり、精神鑑定の分野でも流行り廃りがあるのだな、と感じました(これは自分の印象を語っているだけであり、統計によって把握した数字に基づくものではありません)
鑑定書を読んでいないのでそれぞれのチームが下した結論については何とも言えませんが、おのおの根拠を見出し、己の識見と理論に照らした上での判断したのでしょう
弁護側の主張した精神鑑定結果が採用されなかったからといって、その鑑定が誤りだと決め付けるわけにはいきません
「だから精神鑑定なんて信用できない」と切り捨てる発言をする人もいますが、ならばどのような手段・方法が可能なのか提言してもらいたいものです
メディアの中には裁判結果について、「少年に刑罰を科すことで事件は解決したのだろうか」と疑問を投げかけているところもあります
ならば「責任能力が欠けていた」として少年が無罪になれば事件は解決したのか、と質問したいところです。記事の末尾にこうした愚かな発言を付け加えるスタイルが流行りなのでしょうか?
有罪であれ無罪であれ、少年院送致であれ強制措置入院であれ、事件の解決などと呼べるものはありません。
少年が20年後に治癒したとして、あるいは更生したとして、殺された人間は生き返りません。事件に衝撃を受け、恐れを抱き、不安に苛まれた人たちにとって少年の更生など何の救いにもならないでしょう
事件は巻き込んだ周囲の人に傷を残し、解決などどこにも存在しないのです
それを承知の上で、記事の末尾に判決に疑問を投げつけるようなやり方は愚かすぎます

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