「人を殺す経験がしたかった」 豊川事件を考える6

「少年の凶悪な犯罪が増えている。この世の中はどうなってしまったのか」といった論調の報道に接したり、そうした趣旨の発言をブログで読む機会も少なくありません
ただ、豊川事件のようなケースが社会で頻繁に発生するとは思いません
この事件は我々の暮らす社会がおかしいから発生したのではなく、あくまで高校生である彼個人に起因する事情によって発生したものです
思春期の自立というテーマに取り組み、挫折をしたからといって皆が殺人事件を起こしたりはしません
こどもの事件は社会を映す鏡である、と言われますが嘘です
こどもの人間関係は極めて狭く、社会との接点は希薄だからです
また、「現代のこどもたちは命の尊さが分かっていない。もっと命の大切さを教育しなければならない」と主張する人もいます
「命の大切さ」が分かっていないから事件を起こしたのではなく、「命の大切さ」のついて判断する次元とは異なる世界で彼を突き動かす衝動が働いた結果、事件が起きたと考えた方がよいと思います(納得できない方もいるでしょうが)
「命の大切さ」の教育に時間を割くなら、「思春期の自立」について支援した方がはるかに現実的です
不登校の児童生徒、ひきこもりの青年など、自立に失敗したこどもが大勢いるのですから
最後に、「精神分析が何でも過去のトラウマに結びつけて解釈する」と批判されますがこれは誤解です。過去の体験が原因の一つになっていると考えるのは事実ですが、精神分析が取り組んでいるのは原因としての過去のトラウマの解明ではなく、行為(行動)の今現在の意味を解き明かすことだからです
あるいは、「なんでもかんでも父親、母親、本人の三角関係の中で考えようとするのはおかしい。エディプスコンプレックスにこじつけているだけだ」との批判もあります
しかし、あえて乱暴な表現をすれば事件(このブログで取り上げている一連の少年・少女の事件)は結局のところエディプスコンプレックスの三角関係の中で発生しており、その外部で発生しているわけではありません
ですからエディプスコンプレックスというモデルを利用して考察するわけです
ただ、教条主義的に理論を押し当てるのが狙いではなく、あくまで事件を起こした彼なり彼女が、そこにどのような意味を込めたかを解釈するのが狙いですその意味で「人を殺す経験がしたかった」という彼の言動は理解不能な発言などではなく、極めて示唆に富んでおり、彼が駆り立てられていた無意識の欲動を端的に表現していると考えます

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