「人を殺す経験がしたかった」 豊川事件を考える5
2000年5月に愛知県豊川市で発生した高校生による殺傷事件(以下、豊川事件と呼びます)について取り上げるシリーズの5回目です
事件の詳細はまとめサイトがありますのでそちらを御覧下さい
ちょっと間が空きました
この事件について、他の人々がどのような所見を述べているのか調べてみました。今回は心理学の先生のコメントを取り上げます
前にも述べましたが、心理学というのはさまざまな理論体系からなる学問であり、考え方は一つではありません
ですから心理学者でも、その人が根幹にしている理論が皆それぞれ違い、当然のこととして見識も異なります
つまり同じ事件を取り上げても、その見方は大きく異なるのです
加藤幸雄・日本福祉大副学長(非行臨床心理学)の話
だれもが少年のことを「いい子」とみていたという。しかし、期待に適応しているように見せてはいたが、内面では葛藤(かっとう)や抑圧を抱え、だれにも見せなかった可能性がある。現実に耐えられなくなって理由のない行動に出るのは珍しくない。ただ「人を殺す経験をしてみたかった」というまで飛躍するのは極めて特異。現実逃避を超えて、自己破壊にまで達している。」(西日本新聞)
短いコメントなので、その背後にある考えは分かりません
ただ、「現実逃避を超えて、自己破壊にまで達している」との考え方には疑問を抱きます。自己破壊なら自殺や自傷行為があるわけで、わざわざ他人を殺害する必要はないでしょう
あるいは自分自身への否定的な思念にとらわれていたなら、「駄目な自分」だとか「弱い自分」を否定したい→壊したい→殺したいと思いつめ、自分に同一視可能な中学生や小学生を殺害するという行動も考えられます
しかし、そこまで自分を否定するような思念を抱いていたとするエピソードは聞かれません
ですから「自己破壊」の衝動に駆られた殺人という解釈には賛成できないのです
「同一視」で言うなら、被害に遭われた初老の夫婦を少年は自分の祖父母に見立てていた可能性はあります
少年の両親は離婚しており、実の祖父母が親替わりになっていました。育ての親である祖父母を「自分の自立を妨げる存在」と見なし、これを排除しなければ自分は自立できないのだ、という思いが少年の中に芽生えていたなら(どこまで自覚していたかはともかく)、初老の夫婦を襲ったのも偶然ではなく必然だったと考えられます
少年の犯行は「理由のない行動」ではなく、「意味(少年にとって)のある行動」だと解釈できるわけです
しかし、心理学の中にも無意識の欲動を認めない学派もありますので、そうした立場からすれば少年の行動は「理由がない」ものであり、「意味のない」ものと見る結果になります
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