小学六年生女子児童による殺人事件 3

本件のような児童・生徒による事件が発生すると、「一人っ子で兄弟喧嘩の経験もないから人との関わり方を知らない」とか、「親の溺愛を受けた子供には他人の気持ちを斟酌できない」など、型通りの浅薄な現代社会批判が登場します
こうした一般論を個別の事件の特殊な事情を挙げて論破するのは容易です
また個別の事件の特殊な事情を一般論の側から論破するのも容易です
したがって、一般論と特殊な事情を並べてああでもない、こうでもないと論じるのはあまり実益がないのです
ただし、「昔は問題がなかったが、いまは問題だらけだ」という認識は誤りです
「昔はいじめなどなかった」などの認識です。戦前にも学校や地域でいじめは存在していたのは厳然たる事実であり、その事実に気がつかなかった人や過去を美化するあまり目が曇った人が、「昔はいじめなどなかった」発言を繰り返しているに過ぎません
昔は昔でさまざまな社会問題があり、現代は現代でさまざまな社会問題を抱えていると考えるべきでしょう
さて、今回は事件の決着について考えます
2004年9月16日付け西日本新聞が長崎家裁佐世保支部での少年審判の結果について報じています
決定で小松裁判長は、「女児は傾倒していたホラー小説などの影響で攻撃的な自我を肥大化させた」と指摘。唯一の「居場所」であった交換ノートやインターネットのホームページで被害女児の御手洗怜美(さとみ)さん=当時(12)=とトラブルになり、被害女児の書き込みを居場所への侵入とみて攻撃性を高めたが「被害女児の言動は殺意を抱かせるようなものではなく、落ち度は認められない」とした。
加害女児の現状として、「命を奪ったことの重大性や被害者の家族の悲しみを実感できていない」と指摘。その理由として、女児にとって「死のイメージ」が希薄な点や、殺害に着手した直後に解離状態に陥ったことなどを挙げた。
人格特性については、「他者に共感する力や、親密な関係を作る力が育っていないが、特定の精神的な障害と診断するに至らなかった」と認定し怒りの感情に対し「回避するか、相手を攻撃して発散するか、両極端の行動しか持ち得なかった」とした。
女児は幼少期から一人で遊ぶことが多かったが、家族は積極的にかかわらなかったと指摘。(1)女児の家庭に資質上の問題を解消できる機能がない(2)集団処遇では他の児童に危害を加える可能性がある―ことなどから、強制的措置が必要と結論づけた。


以上が少年審判で下された結論(判決)です
この記事について新聞各社はさまざまに報じていますが、「これで問題が解決したとは思えない」との実感がすべてではないでしょうか
新聞各社は「今回の事件から教訓を導き出し、事件の再発防止に役立てるべきだと主張しています。話の筋としては理解できるのですが、そう簡単にできるものではありません
化学の実験で1000回試みて1000回同じ結果が得られれば、そこから何らかの定理を導き出せるでしょう
しかし、本件のようなきわめて特殊な事例から普遍的な定理を導き出すのは不可能といえます。全国二百万人の小学生児童の中でたった1回しか起こらない現象です
精神分析はこどもの内面にエディプスコンプレックスや去勢コンプレックスのような「殺すか殺されるか」の葛藤が存在するという前提に立っており、本件のような事件は決して奇異なものだとは考えません
ですが、全国の小学校が精神分析を実践すべきだ、などとは主張しません
そんなことをすれば、エディプスコンプレックスを教条主義的に当てはめるだけの粗雑な分析が蔓延するだけであり、フロイトは激怒するに違いありません
精神分析の結論部分だけを押し付けるような(書店にあふれる俗流の精神分析本のような)分析の蔓延は有害でしかないのです
精神分析は分析家がその神経症の症状の意味を解釈し、被分析者が解釈を受け入れ納得すれば治癒する、というモデルです
解釈自体が事の真相に沿うものであるかどうかは別問題です
ですから本件によってストレスを感じ、割り切れない思いを抱いた人(神経症の症状が生じた人)に分析家は解釈を提供し、納得がいけば症状は緩和ないし消失します。その解釈が真実であるとは限らなくても、です
どのような解釈を受け入れるかは人それぞれで、普遍的な真実が必ずしも人を納得させるわけではありません。あくまで個人の受け入れ可能な解釈がそこにあるだけなのです
ですから真実を究明しようとする犯罪心理学の立場とは根本的に異なるのです

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