「天使よ故郷を見よ」
卒業、そして入学という行事のたびに自分の青春を思い起こす人も多いのではないでしょうか
自分が卒業した高校は数年前、廃校になりました。少子化の影響です
校舎は取り壊されたと聞いていますが、足を運んで自分の目で確かめたいという気持ちはありません
卒業後、一度だけ用事があって高校を訪れましたが、同窓会などの行事には出席もせず、級友とも会っていません
実家を離れた暮らしが続いているためもあり、級友の消息も耳には入ってこない状態です
特に自分の過去を否定したと思っているわけではありませんが、懐かしむ気持ちにはなれないのです
先日書いた、加藤諦三の本に影響され「早稲田で心理学を勉強する」と語っていたA君や、隣のクラスなのになぜかいつも「フロイト入門」を手に精神分析の話を熱心に語ってきたB君など、時折頭に浮かぶ人物はいますが
青春時代について考える本を何か一冊紹介したいと思って書き始めたのですが、話の方向が定まりません
高校生の頃読んでいた本といえば、トマス・ウルフの「天使よ故郷を見よ」(新潮文庫)があります
ウルフは1900年に生まれ、1939年に結核のために死去したアメリカの作家です。背がとても高くて2メートル近くあり、立ったまま冷蔵庫を机のかわりにして原稿を書いたと伝えられています
ヘミングウェイやスコット・フィッツジェラルドと同じ「失われた世代」に分類されますが、作風はかなり異なります。1900年代のアメリカの生活を自伝的要素の濃い物語として描き出したウルフは、ホイットマンが詩でアメリカを描いたように小説でそれをなした人物と評されています
残念ながら日本ではヘミングウェイやフィッツジェラルドほど知られていませんが
上巻にある、放浪の旅からもどったガントが駅から家へと向かう場面で町の朝の風景を織り交ぜつつ描いたところは見事です。さらに下巻のクライマックス、ユージーンと死んだ兄ベンとの対話は圧巻です
ウルフの最初の長編である「天使よ故郷を見よ」は翻訳されていますが、他の作品についてはまだです
村上春樹によってフィッツジェラルドの作品が再び注目を集めたように、誰かがトマス・ウルフにスポットライトを浴びせてくれないものか、と思っています。そうなれば他の長編も翻訳・出版されるだろうと