「ナウシカ解読」
物語を終わらせるための苦闘
劇場版アニメーション「風の谷のナウシカ」と異なるもう一つの世界があります。宮崎駿が描き続けた漫画「風の谷のナウシカ」です
幾度もの中断を経て、12年にかけて完結された物語はアニメ版とは異なる展開で、深みと奥行きを増した読み応えのあるものに仕上ってます
完成までに12年を要した最大の理由は、作者宮崎駿がナウシカの物語をどのように決着させ、終わらせるか思案し続けたからでしょう
宮崎の思索と迷いは、庭園でのナウシカと管理人との対話の中に見てとれます。物語の結末へ向う前の「よどみ」のようなシーンなのですが、庭園での対話を経て宮崎はナウシカの物語を終わりへ向かわしめる決意をしたと思われます
この漫画「風の谷のナウシカ」については、稲葉振一郎の「ナウシカ解読~ユートピアの臨界」(窓社)という評論があります。中盤にでんと位置するユートピア論の部分を除けば、優れた物語の解読となっています
語り始めた物語は責任をもって終わらせなければなりません。作者である宮崎自身が納得できるようになるまで、決着をつける覚悟がつくまで12年もの歳月が必要だったわけで、その葛藤は余人に測り得ないものがあったのでしょう
劇場版アニメーション「もののけ姫」や「ハウルの動く城」には幾つもの不満があるのですが(シナリオが破綻しているので)、創作者宮崎駿に敬意を抱くのは彼が12年かけてナウシカの物語を語り終えた、という一点にあります
ある小説家は「物語を終わらせるには銃声一発あれば足りる」と豪語したとか聞きますが
実際、話が展開する中で登場人物が次々と亡くなり、何とも煮え切らないかたちで主人公まで倒れてしまい終わりを迎える、なんて小説があります。最後まで描き切れず、途中で投げ出してしまったわけです
さて、「ナウシカ」を「癒しの物語」だと指摘する人がいます。だが、何をもって「癒し」と規定しているのでしょうか。実は「癒し」という概念は実にあやふやであいまいなものです
ちなみに「癒し」なる概念は精神医学用語に関する事典にも定義はなく、心理学や精神分析学関係の事典にも登場しません
ネタバレになるのを避けるため詳細は省きますが、宮崎駿のたどり着いた物語の終わりは決して癒しと呼べるようなものではありません。絶望の一歩手前で踏み止まり、それでも足掻こうとする人間の物語だと言えます
さまざまな苦悩を一身に背負い、さらにこの先より困難な事態に直面するのを承知の上でつぶやくのです。「生きねば・・・・」
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