ゲーム感覚
とある刑事事件を起こした19歳の少年(専門学校生)と面接をしたとき、彼の口からは模範解答のような反省の弁しか聞き出せませんでした
事件の動機についても「遊ぶ金がほしかった」と繰り返すだけで、自分の内面には踏み込ませまいとする防衛が強く感じられました
「自分でやったのだから、どうしてやったのか(動機を)説明できるはず」との見方が存在するわけですが、精神分析をかじっている人間からすると、こうした常識は疑わしい限りです
金目的や怨恨など、犯罪の動機はもちろんそれとして存在するわけです
が、本当に彼なり彼女を突き動かしたものはいったい何であったのか?
少年犯罪の動機を語る上で、メディアを中心に「ゲーム感覚でやった」との言説が随分と流布されているます。そして、「ゲーム感覚で暴力をふるうとはけしからん。命の大切さをいまのこどもたちはわかっていない」という主張が続きます
勝手ながら推測すると、「ゲーム感覚でやった」との供述は本当に加害者である少年の口から語られたものとは思えません
警察の取調べでは繰り返し事件についての供述を迫られ、動機を問いただされるわけです。その執拗な問いから逃れる方便として「ゲーム感覚でやった」という答えが用意されたのではないでしょうか。それもおそらくは取調べにあたった警察官の側が用意した答えなのでは
教育評論家やジャーナリストが「ゲーム感覚でやった」というフレーズに飛びつき、さまざまに論評されました
かなり的を外れた議論が盛り上がり、「暴力的なゲームが青少年を蝕んでいる」からゲームを規制すべきだ、との方向へ進んでいます
およそ専門家を自称する人たちがこんな的外れの議論にのめりこみ、ゲームを規制すれば少年の凶悪犯罪を予防できるとの結論を掲げるのには唖然とします
かつてはテレビの低俗な番組が槍玉に挙がり、その次は漫画が青少年問題の原因とされました。今度はゲームです。流行りものを犯人に仕立て、規制に乗り出そうというのはいつもの手口で、その片棒を担ぐ「専門家」が商売のネタに利用する・・・・
ゲームをやっているこどもの脳には異常が起きている、とジャーナリスト草薙厚子は「ゲーム脳」を問題視しますが、精神医学や脳神経学の世界では笑い話扱いされているのが現実です
十分に検証もしないまま、ゲームこそ諸悪の根源だと決め付けるメディアの側にも責任があります
さて、話を戻します
事件を起こした少年の口から、その心の奥底にある衝動については聞きだせないまま面接は終わりました。時間が限られているためでもあり、また自分の技量のつたなさが原因でもあります
ただ、面接の後に彼に描いてもらった一枚の絵が彼の心情を語っているように思います
絵にはスカートを翻して通りを闊歩する若い女性の姿が生き生きと描かれていました。服飾デザイン系の専門学校に通うだけあって絵のセンスもなかなかのものです
おそらくは田舎の旧家の長男として「跡継ぎ」になるよう期待されて育ったことが彼には重荷だったのでしょう。服飾デザインの専門学校には進んだものの、親は地元で固い勤めに就くのを望んでいたはずです
スカートを翻して街を闊歩する女性の姿は、彼の憧れが反映したものでしょう
ただし、だからといって女性化願望があるとか、性倒錯だとか決め付けるのは早計です
「金が欲しかった」と説明する犯行の本当の動機は、わが道を闊歩できる自由を手に入れたかったからなのかもしれません
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