ネズミ人間

再び宮崎勤事件について触れます

宮崎の供述に登場するネズミ人間や遺骨を送りつけた箱に添えた今田勇子名の

手紙など、事件を解き明かすための重要な手がかりだとする主張があります

ネズミ人間が何を指し示すのか、今田勇子とは何だったのか判決では触れていな

いのはおかしいと批判する人たちもいました

このブログでたびたび言及しているフランスの精神分析家ジャック・ラカンが宮崎勤

の分析をしたらどうなったのか、ちょっと想像してみました

フロイトが分析の時間を厳格に定めたのに対し、ラカンはこれを無視します。あらか

じめ時間の決められた分析など無駄だと

ラカンの分析は挨拶をするやいなら「今日の分析は終わりだ」と告げて終了するもの

から、2時間にも及ぶこともあったといいます

ラカンの精神分析を受けようとする人は、何を話せば少しでも長くラカンに話を聞い

てもらえるのか考えるようになります。つまり分析家の部屋のドアをノックする前から

すでに分析は始まっているわけです

宮崎勤がラカンの待つ部屋へ入るなり、ラカンは傲然と言い放つでしょう

「いったい君は何の話をしたいのかね」

「ネズミ人間」と宮崎は小声で答えます

「なんだ、くだらない。他にないのかね」

「今田勇子」と、宮崎はますます小さな声で答えます

「君はそんなくだらない話をするため、ここへきたのかね。今日の分析は終わりだ。

帰りたまえ。ああ、料金は受付で払って、次回の予約を入れておきなさい」

ラカンは話を聞かないのではなく、宮崎に語らなければならない本当の話をするよう

うながしているのです。ネズミ人間も今田勇子も、本当に語らなければならない話を

先送りするためのメタファーにすぎないと

ラカンが実際にどのような分析をしたのかについては、ラカンに教育分析を受けたア

メリカ人、スチュアート・シュナイダーマンが「ラカンの死 精神分析と死のレトリック」

(誠信書房)の中で述べています

フロイトは患者に50分という時間を保証したのですが、ラカンは分析を受けようとす

る者にためらいや躊躇をゆるさず、すぐさま核心について語るよう迫り、容赦なく分

析の終了を宣告します

こうしたやり方をすべての臨床家に勧めたりはしません。少なくともラカンは自分の

やり方を貫く覚悟があり、批判されても動じないだけの理由を手にしていました

実際、ラカンはフロイトの定めた神聖なルールを破った無法者として告発され、国際

精神分析学会から追放されたのです

さて、ラカンが宮崎勤の分析をどこまで進められたのか、想像しても答えはでません

ただ、宮崎が終始沈黙を貫いたとしてもラカンならその沈黙を読み、解釈しようとし

たと思います

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ラカンの<死>―精神分析と死のレトリック (1985年)
誠信書房
S・シュナイダーマン

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